「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました
なぜ、それを今言うの。なぜ、私の前で。

「ほう……」

ガゼルは、掴まれながらも眉一つ動かさず、薄笑いを浮かべる。

「聖女は、純潔を奪われると力を弱めると聞きますが? それでも、貴方はその体に触れたのですか?」

「……ああ。」

ゼインの答えは、重く、静かだった。

私は息を呑んだ。

聞いてはいけない。知りたくなかった。

でも、耳は確かにその言葉を捉え、心に突き刺した。

この人は、他の誰かを、愛していた。

しかも、命がけで守ろうとした女性を。

「まあ……」と、ガゼルはわざとらしく肩をすくめた。

「どれほど二人が愛し合っていようと、もう遅い。シシリアは私の妻。そして貴方は、リシェル王女と結婚し、この国の王太子になるお方ですよ?」

その瞬間、広間がざわめいた。

重たい沈黙が一拍、空気を裂いて流れ込む。

「……え?」

と、声を上げたのは、シシリアだった。

「ゼインが……この国の、王太子……?」
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