「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました

第2章 屈辱の婚礼

結婚式の前日。

王太子の間には、沈黙だけが満ちていた。

長椅子に深く腰を下ろすゼインは、背もたれに身を預け、まるで魂が抜けたように天井を見つめていた。

その視線の先には何もなく、ただ時間だけが過ぎてゆく。

部屋の中央には、純白のウェディングドレスと、深紅の軍服が並べて置かれている。

まるで対照的なふたつの運命。

愛を象徴する純白と、血と戦の誓いを意味する赤。

ゼインは明日、正式にアルディナ家の一員となる。

かつて誇りを持って名乗っていた“ゼイン・ラグナリア”という名は、過去に置いてゆかねばならない。

その右手には包帯が巻かれ、ところどころ赤く滲んでいた。

数日前、広間で床を叩き砕いたあの瞬間から、傷は癒えていない。

それどころか、彼の心の傷の方が、深くえぐられたままだ。

「ゼイン。」

私は静かに声をかけた。
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