「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました
彼はその名に、かすかに反応し、ゆっくりと顔を向けた。

そして、私に向かって──微笑んだ。

けれどそれは、誰が見ても作り物とわかる笑顔だった。

瞳は笑っていない。

どこまでも暗く、乾いた光が宿っている。

「……リシェル。似合いそうだな、あのドレス。」

そう言って、彼はドレスを一瞥した。

でもその目には、何も映っていない。

私は、何も言えずに彼の隣に腰を下ろす。

重い沈黙が、また部屋に落ちる。

「……おまえは、この結婚で幸せになれると思うか?」

ゼインの呟きに、私は心臓を強く握られた気がした。

「それでも、私はこの国の娘。運命に従う覚悟はある。」

「運命……か。」

ゼインは自嘲気味に笑った。

「だったら俺は……運命に殺されるんだろうな。」

私は、彼の包帯の巻かれた右手をそっと取った。

その手は、熱く、荒れていて、震えていた。
< 33 / 62 >

この作品をシェア

pagetop