恋するだけでは、終われない / 気づいただけでは、終われない
第十一話
「……これにて、文化祭を終了します」
……万雷の拍手の中、文化祭実行委員長の都木先輩が。
中庭の特設ステージの中央で、深々と一礼する。
隣の副実行委員長も、合わせて礼をしているものの。
……あれ?
三役のはずの、春香先輩はここにはいないようだ。
まぁ、別に。
全員が揃わなければならないことは、ないのだけれど。
都木先輩の『勇姿』を、見にこないなんて。
それでよかったのだろうかと。
僕はふと、気になった。
顔を上げた都木先輩と、一瞬目があって。
左の手のひらを、ほんのわずか僕にむけてくれる。
「……お疲れさまでした」
声に出すことはないけれど、先輩にはなんとなくつうじたようで。
買い被りかも、知れないけれど。
……先輩が少し、ほほえんでくれた気がした。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
突然、大きな声がすると。
体育祭実行委員長の、長岡先輩がいきなりうしろのほうから。
「お、俺にもしゃべらせてくれ!」
人混みをかきわけながら進みだし、ついにはステージにまでのぼってしまう。
「ちょっと、殴り込ませてもらうぞ!」
そう叫ぶ割に。
「いや、ステージを横取りしてすまん!」
随分と丁寧な、先輩は。
「それ、ちょっと貸してくれ!」
都木先輩に向かって、マイクを渡してほしいと頼んでいる。
ま、まさか……。
ここで一曲、歌うとか?
「長岡君……どうぞ」
「す、すまん」
少し戸惑いながら、都木先輩がマイクを渡す。
スイッチが入っていることを確認した長岡先輩は、大きく息を吸い込むと。
「海原昴、どこにいる!」
思いっきり音割れさせて、突然僕の名前をステージで叫び出す。
……な、なんですか?
まさか、決闘とか?
……あぁ、それなら。
高嶺とか、玲香ちゃんでも。
三日くらい、断食させておけばよかった……。
「アンタ、なにバカなこといってんの?」
「えっ……?」
「昴君、呼ばれたんだから早くいきなよ!」
隣のふたりが、ステージに上がれとうながすけれど。
台本に出番なんて、なかったはずだけれど……。
僕より先に、事情を理解したらしく。
ステージの都木先輩が、小さく僕を手招きすると。
「遅いっ!」
高嶺が、僕の背中をドンとついてから。
「いまだけだからねっ!」
……と。
よくわからないことを口走ってから、プイと横を向く。
「海原、早くこっちにこいっ!」
ステージでは長岡先輩が、再度絶叫していて。
ま、まさか……。
僕、本当に決闘させられるんですかっ?
「……そんなわけないでしょ。長岡君なりの、愛情表現だよ」
「えっ?」
予備のマイクを、僕に渡しながら。
都木先輩が、笑顔でささやくと。
……次の瞬間。
長岡先輩が、僕を指さして。
「みんな、コイツが『委員長』だぁ〜!」
そう、三度目の雄叫びをあげて。
「ウォーっ!」
会場からは、まるで地鳴りのような音が返ってくる。
「コイツのおかげでな。俺は、俺はっ!」
長岡先輩が、向かい合う僕に思いっきりツバを飛ばしながら。
「三年間で今年の学園祭が一番楽しかったぞ!」
「ウォーっ!」
「お前らはどうだぁ〜」
「ウォーっ!」
叫び終わって、肩でゼェゼェと息をしている。
「……要するに、みんなの感謝の気持ちだよ」
都木先輩、決闘じゃなかったのはよかったですけれど。
どうして、僕なんですか……?
先輩は、僕の疑問など気にせずに。
「海原君、ひとことでいいから。あいさつして」
「えっ?」
また、台本にないことを振ってきたので……。
「ひ、ひとことでいいんですよね?」
「うん」
し、仕方がないので僕は。
「い、委員長の。海原昴です」
そうひとこと、あいさつしたところ。
「ウォーっ!!!」
……おぉっ。
なにをいっても、盛り上がってくれるだけでなく。
「三年間で、一番楽しかった」
そういって、喜んでくれる先輩たち。
それになにより、隣の都木先輩が。
笑顔で本当によかった、そう思えて幸せだったので……。
「……では、失礼します」
……。
……えっ?
か、会場が……。
一気に、静まり返りましたけど。
な、なにか?
いけなかった、ですか……?
「ね、ねぇ……! 海原君?」
都木先輩が、また別のマイクを手に。
小さくも悲鳴に似た声で、僕を呼んでから。
「……いまのは、冗談だよね?」
そういうと、会場がドッと笑い出す。
「最高だぜ、委員長!」
長岡先輩が、血走った目で僕を見る。
あの……寝不足ですか?
……それとも、怒っています?
ふと、客席の放送部員たちと目が合うと。
三藤先輩は、すかさず視線を逸らして。
高嶺が、口元で『バーカ』と僕に伝えてきて。
玲香ちゃんが、あたたかい目で僕を眺めている。
多分、言葉が足りなかったってこと……なんですよね?
で、その隣の……。
いたっ!
ステージ向きの人、発見!
それに……これなら、僕でも話しができる!
「あの、波野先輩!」
思いがけず、大きな声になって。
長岡先輩が、今度はギョッと驚いた顔で僕を見る。
「そうだね! 姫妃、おいで!」
都木先輩の顔が、パッと明るくなり。
「えっ? なになに?」
下手で戸惑っている、波野先輩に手を差し伸べて。
ステージにあがるよう、うながしてくれている。
「……僕たち委員会のメンバーは、あまり表舞台は得意ではないのですが」
僕はそういって、会場を眺めると。
「そういえばひとり、例外がいました」
その人に、ぜひここにきて欲しいと語り出す。
「……演劇部の部長は、怪我でいまだ入院中です。そして、相方がいなくなったもうひとりの部員は。ギプスと包帯を巻いたまま、委員会のメンバーとして存分に手伝ってくれました」
会場が一気に、静かになる。
どうやら、僕は自分語りは苦手だけど。
「……紹介させてください。『演劇部』の、波野姫妃さんです」
……誰かのことなら、それなりに説明できるらしい。