夜探偵事務所
第十一章:エピローグ①
第十一章:エピローグ①
静寂が深妙寺の境内を支配していた。
夜空にはただ月だけが白く輝き今しがたまで繰り広げられていた死闘の痕跡を静かに照らしている。
「……終わったな」
仁がそっと夜の肩に手を置き労うように叩いた。
「……そうだな」
夜は短く応えた。その声には深い疲労の色が滲んでいる。
「じゃあみんな疲れたやろ。ワシの家に行こう」
仁がそう言うと一行はまるで長い夢から覚めたかのようにゆっくりと母屋へと歩き始めた。
「おい」
不意に滝沢が声を上げる。その指は石畳の上に伸びている三人の男たちを指していた。
「コイツらどうする?」
「なんじゃそいつらは?」
仁は今までその存在に気づいていなかったかのように眉をひそめる。
「花柄の女に、何か弱みでも握られてたんじゃねぇのか。妙に怯えたツラしてたぜ」
滝沢はニヤリと口の端を吊り上げて言った。
「……ほっとけ。**主(あるじ)を失った呪いはもう意味を成さん。**奴らはひどい二日酔いみたいな頭痛と共に目を覚まして自分がなんでこんな所におるのか分からんまま帰って行くだけや。せいぜい残りの人生、悪夢にでもうなされるこったな」
仁は吐き捨てるようにそう言うと一行を促した。
山本家・居間
通された居間には温かいお茶が用意されていた。湯気の向こうで健太は改めて全員に向かって深々と頭を下げた。
「本当に皆さん……ありがとうございました!」
健太は最後に夜の方を真っ直ぐに見つめた。
「夜さん……本当にありがとうございました」
「……礼はじいさんに言え」
夜はぷいと視線をそらしてぶっきらぼうに言った。だがその横顔の口元が本当にわずかだが嬉しそうに緩んだのを健太は見逃さなかった。その不器用な優しさに彼の胸は温かくなる。
しばらくの間「本当に良かった」「お疲れ様」という安堵と労いの言葉が温かいお茶と共に行き交った。
「それにしてもタダ働きでこの疲労とはな。割に合わん」
滝沢がぼやくように言って茶をすする。
「滝沢さん!そういうこと言わないの!」
璃夏が慌てて窘める。そのやり取りに居間にはくすりとした笑いがこぼれた。
「じゃあみんな疲れたやろ。部屋も用意しとる。今日はゆっくり休んでくれ」
仁のその言葉を合図に長い一日はようやく終わりを告げた。
静寂が深妙寺の境内を支配していた。
夜空にはただ月だけが白く輝き今しがたまで繰り広げられていた死闘の痕跡を静かに照らしている。
「……終わったな」
仁がそっと夜の肩に手を置き労うように叩いた。
「……そうだな」
夜は短く応えた。その声には深い疲労の色が滲んでいる。
「じゃあみんな疲れたやろ。ワシの家に行こう」
仁がそう言うと一行はまるで長い夢から覚めたかのようにゆっくりと母屋へと歩き始めた。
「おい」
不意に滝沢が声を上げる。その指は石畳の上に伸びている三人の男たちを指していた。
「コイツらどうする?」
「なんじゃそいつらは?」
仁は今までその存在に気づいていなかったかのように眉をひそめる。
「花柄の女に、何か弱みでも握られてたんじゃねぇのか。妙に怯えたツラしてたぜ」
滝沢はニヤリと口の端を吊り上げて言った。
「……ほっとけ。**主(あるじ)を失った呪いはもう意味を成さん。**奴らはひどい二日酔いみたいな頭痛と共に目を覚まして自分がなんでこんな所におるのか分からんまま帰って行くだけや。せいぜい残りの人生、悪夢にでもうなされるこったな」
仁は吐き捨てるようにそう言うと一行を促した。
山本家・居間
通された居間には温かいお茶が用意されていた。湯気の向こうで健太は改めて全員に向かって深々と頭を下げた。
「本当に皆さん……ありがとうございました!」
健太は最後に夜の方を真っ直ぐに見つめた。
「夜さん……本当にありがとうございました」
「……礼はじいさんに言え」
夜はぷいと視線をそらしてぶっきらぼうに言った。だがその横顔の口元が本当にわずかだが嬉しそうに緩んだのを健太は見逃さなかった。その不器用な優しさに彼の胸は温かくなる。
しばらくの間「本当に良かった」「お疲れ様」という安堵と労いの言葉が温かいお茶と共に行き交った。
「それにしてもタダ働きでこの疲労とはな。割に合わん」
滝沢がぼやくように言って茶をすする。
「滝沢さん!そういうこと言わないの!」
璃夏が慌てて窘める。そのやり取りに居間にはくすりとした笑いがこぼれた。
「じゃあみんな疲れたやろ。部屋も用意しとる。今日はゆっくり休んでくれ」
仁のその言葉を合図に長い一日はようやく終わりを告げた。