Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
「本田さんに話したんだ、小夜と結婚すること」

想の部屋で小夜が作ってきた和食を食べていると、ふいに想が切り出した。
小夜は驚いて箸を持つ手を止める。

「えっ、いきなりそんなこと言ったの?」
「いきなりでもないだろ? 小夜とつき合ってることは話してあったんだから。結婚は当然の流れだ」

きっぱりと言う想に、小夜はまたしでドキッとする。
自分とのことを、最初からそんなふうに真剣に考えてくれていたのが嬉しい。

「それで、本田さんはなんて?」
「おめでとうって祝福してくれた。だけど発表は待ってくれって」
「うん、それはそうだよ。それにまだ先の話だし」
「俺は小夜さえよければ、いつでも構わない。と言うより、なるべく早く婚姻届を出したい」
「想、前から思ってたんだけど。どうしてそんなに急ぐの? なにか理由があるの?」

すると想は黙ってうつむいた。
小夜は不安に駆られる。

「想? どうかした?」
「……小夜に幻滅されたくない」

え?と小夜は聞き返す。

「私が想に? 幻滅なんて、する訳ないじゃない」
「……自分でもどうしようもないんだ。みっともないくらい、嫉妬してる」

小夜はますます首をひねった。

「嫉妬? 誰に?」

想はしばらく押し黙ってから、ポソッと呟く。

「小夜と一緒にピアノ弾いてた男。息もぴったりで、お似合いだった」
「ピアノ? あっ、光くんのこと?」

すると想はピクリと眉を上げた。

「小夜の口から男の名前が出るだけで妬ける」
「え、どうして? 私は想にしか気持ちはないのに」
「だけどあいつは、小夜を奪おうとしてる」

もしかして、と小夜は思い当たった。

「想、ひょっとして光くんと話したの?」
「……ああ。あいつは小夜のこと、よく知ってる口ぶりだった。一緒にピアノを演奏するくらい、仲がいいんだろ?」
「職場が同じってだけなの。バーのマスターに、二人で一緒に弾いてほしいって頼まれて弾いただけよ」
「ごめん、わかってる。小夜はなんとも思ってないってこと。だけどあいつは本気で小夜に惚れてる。俺と会えない間に、あいつが小夜に近づいたらって思うと、耐えられなくて」
「想……」

想の気持ちに、小夜は胸が詰まった。
自分はこんなにも愛されているのだと。

「私もあなたが大好きよ、想。私だって早く結婚したい。だけどあなたのことが大切だから、慎重にならなくちゃって言い聞かせてる。想、私はこの先の長い人生をずっとあなたと一緒に生きていく。それだけは変わらない。だからもう少し時間をください。あなたにはこれからも、素敵な曲をたくさんの人に届けてもらいたいから。私との結婚で、その道が閉ざされてはいけないの」
「小夜……」

想は感極まったように小夜を見つめた。

「わかった。ありがとう、小夜。改めて惚れ直した。やっぱり小夜は俺のミューズだ」
「ええ? もう……。大げさだな、想は」

呆れて笑う小夜に、想は切なげに目を細める。

「小夜、今すぐ抱きたい」

小夜の顔が一気に真っ赤になった。

「いい?」
「そ、そんなこと、聞かないで」
「わかった、聞かない」

そう言うと想は席を立ち、小夜の手を引くとそのまま一気に抱き上げた。

「きゃっ、想!」

思わずギュッとしがみつくと、想は不敵な笑みを浮かべる。

「小夜、完全にスイッチ入れたな」
「な、なにの?」
「言わせたいのか?」

小夜は、ふるふると首を横に振る。
心臓がドキドキし、顔が火照ってきた。

「すぐにわからせてやるから」
「想、なんか怖いよ?」

身構える小夜だったが、そのあとは想にひたすら甘く溶かされていた。
< 111 / 123 >

この作品をシェア

pagetop