Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
「光くん、おはよう。少しだけ時間もらえる?」

翌日。
小夜は出勤すると、勤務が始まる前に光に声をかけた。

「なに? 改まって」
「光くんに直接きちんと伝えたくて。光くん、私が悩んでた時、励ましてくれてありがとう。仕事でもいつも助けてもらってる。ピアノの演奏でも、光くんにたくさん教えてもらった。本当に感謝してます」
「……それを言いたかったの?」
「うん。それからこれも。私、想と結婚します。彼のことが誰よりも好きだから。私を大切にしてくれる彼を、心から信じられるから。私の本当の幸せは、彼と一緒にいることなの。これからもずっと」

そう言ってじっと光と目を合わせていると、やがて光は、ふっと笑って視線を伏せた。

「なんか変わったな、小夜。知り合った頃は時々寂しそうな顔してて、思わず守ってやりたくなった。けど今は、凛とした大人の女って感じ。愛されてる証拠なんだろうな」

自嘲気味に呟くと、顔を上げて小夜を正面から見つめる。

「小夜はもう、俺の手の届かないところにいる。どんなに呼んでも振り返らない。あいつしか見えてない。虚しいだけの恋は、俺には似合わない。だからきっぱり諦める」
「光くん……」
「じゃあな。あ、そうそう」

背を向けようとしてから、光は思い出したように振り返る。

「あいつに言っといて。見せつけるようなことすんなよって。どんだけ小夜に惚れてんだ? 大人の余裕ってもんがなさ過ぎる」
「え? どういうこと?」

すると光はニヤリと笑って、自分の左耳の下を指差した。

「小夜のここ、キスマークついてる。今も、この間も」
「はっ!? キ……」

小夜は左耳を押さえて絶句する。

「しかもパッと見じゃわからない。小夜のこといつも見てる俺にしかわからないようなところに。当てつけかよ? ったく」

そう言うと今度こそ、じゃあな!と片手を挙げて去っていく。
小夜は顔を赤くしたまま、光の後ろ姿を呆然と見送った。
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