Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜


「うーん……」

二週間後にようやく入荷してきた想のピアノ楽譜本を手に、小夜は難しい顔で考え込んでいた。

「どうかしたの? 小夜」

店長に声をかけられてハッとする。

「あ、いえ。なんでもありません。すぐに陳列しますね」
「うん、お願い。また飛ぶように売れるわよー」

嬉しそうな店長に小夜も笑顔を返してから、本を持てるだけ抱えてポップスの棚に向かう。
一番目立つところに平積みし、数冊棚に並べた。

「これでよしっと」

そしてもう一度考え込む。

(どうしよう、買いたい。でもだめ。忘れなきゃ)

さっきからその堂々巡りをしていた。
あの想が作曲したなら、どれも素敵な曲に違いない。
先日軽く弾いてみた二曲も、メロディラインが綺麗な曲だった。
それに彼はシンガーソングライターだという。
バーではピアノ演奏だけだったが、歌も歌えるのだ。

(話す声もいい声だったもんなあ。低くて艶っぽくてよく響いて。あの声で歌ったら、きっと……。いやいや、だからだめだって)

うっとりしては、真顔に戻って首を振る。
その繰り返しに、店長は怪訝そうに小夜に尋ねた。

「ねえ、どうかしたの? 小夜。そんなに想が気になるなら、曲を聴いてみたら?」
「いえ、それはやっちゃいけないことなので」
「は? どういうこと?」
「私だけのマイルールなんです。気にしないでください」

その時、若い女性客が「So Cool 入荷しましたかー?」と聞いてきた。

「はい、ございますよ。こちらです」
「あった! よかったー」

嬉しそうに胸に抱える女性に微笑んで、小夜はレジへと案内した。
< 25 / 123 >

この作品をシェア

pagetop