Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
「えっと、それでは佐川くん」
「同い年だし、光でいいよ、小夜ちゃん」
「いやいや、ここは日本なんでね。佐川くんで」
「じゃあそう呼ばれたら、俺は小夜ちゃんって返す。アメリカ帰りなんでね」
「はいー?」
「光って呼んでくれたら、藤原さんって返すから」
「なによそれ。おかしいでしょ?」
「そういうゲーム」

小夜はもうポカンとするしかない。
仕事の話以前に、普通の会話すらままならない。
光はマイペースに、ポップスの棚から楽譜を取り出してぱらぱらとめくっている。

「へえー、今の日本ってこんなタイトルの曲が流行ってるんだ。ながっ! もはや文章じゃん」
「ああ、そうなんだよね。流行歌ってそういう傾向があるかも」
「流行歌かあ。いい音楽なら二十年先も三十年先も残っててほしいな」

おや、初めて真面目なセリフを聞いたと小夜は感心した。

「光くんは、ジャズをやってるんだよね?」
「そうだよ、小夜」
「ちょっと! 藤原さんって返す約束でしょ?」
「光って呼び捨てにしてくれたらね。光くん、だと小夜って返す」
「もう、なんなのよそれ。じゃあもう佐川くんにするから」
「わかったよ、小夜」

むー!っと小夜は光を横目で睨む。

「ははっ! 日本の女の子っておもしれえ」
「面白くないし、今は仕事中です。ほら、早くついて来て。店内を説明するから」
「サンキュー、小夜」

もう一度ジロリと視線を送ってから、小夜は光に背を向けて歩き出した。
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