Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
「じゃあ、まずは入口から順に説明します。入って右側が楽器の展示と販売のコーナー。左側が楽譜。正面の丸いステージにあるグランドピアノは、主にミニコンサートやデモンストレーションに使ってます」
「ミニコンサート?」
「そう。音楽家を招いて、ピアノのソロだったり、フルートやヴァイオリンの伴奏だったり」
「へえ。ジャズも演奏する?」
「あ、言われてみればジャズのコンサートはなかったかも?」
「ふうん。やっぱりまだまだ日本はジャズって馴染みがないんだな」
どこか寂しそうに呟く光に、小夜は励ますように言う。
「そんなことないよ。若い世代はあんまり知らないかもしれないけど、年輩の男性とかはジャズ大好きだよ。私もバーで演奏する時は必ずジャズも弾くようにしてるし」
「え? 小夜、バーでジャズ弾いてるんだ。聴いてみたい」
「いやいやいや、光くんに比べたら全然ですよ。音大で専攻してたのはクラシックだから」
必死に手を振って否定してから、小夜は「そうだ!」と思いつく。
「光くん、早速デモンストレーションでジャズピアノ弾いてくれない? 店長に聞いてくるから!」
そう言うと、返事も待たずに小夜はカウンターに向かった。
「店長! 光くんにデモでジャズピアノ弾いてもらってもいいですか?」
「へえ、いいわね。私も聴きたい」
「はい! じゃあ早速お願いしてきます」
そしてまた光のもとへ戻る。
「光くん、弾いてみて」
「なんか小夜、ほんとに子どもみたいだな。ちょこまかどっか行ったと思ったら、目輝かせて戻って来るし」
「ね、ほら。みんなも集まってきたし、聴かせてよ」
「はいはい。ちびっこ小夜ちゃんにお願いされたら弾かなきゃな」
光はひょうひょうとしながらステージに上がり、ストンとピアノの前に座る。
しばらく天井を見上げたかと思ったら、いきなりジャン!とパワー全開で弾き始めた。
「す、すごっ」
思わず小夜は目を見開く。
うねるような音圧が押し寄せ、たたみかけるようなリズムに鼓動が速くなった。
(なにこれ。旋律も拍子も掴みどころがない)
伝わってくるグルーヴにただ呑み込まれそうになる。
全身の血が脈打つような興奮に包まれた。
「わあ、かっこいいね」
店内に入って来たばかりの女性客たちは、光のピアノに引き寄せられる。
楽譜のコーナーにいたギターを背負った若い男の子も、ステージの前までやって来た。
(やっぱりジャンルなんて関係ない。いいものはいいんだ)
小夜は改めてそう思いながら、生き生きと躍動するように演奏する光を見つめていた。
「ミニコンサート?」
「そう。音楽家を招いて、ピアノのソロだったり、フルートやヴァイオリンの伴奏だったり」
「へえ。ジャズも演奏する?」
「あ、言われてみればジャズのコンサートはなかったかも?」
「ふうん。やっぱりまだまだ日本はジャズって馴染みがないんだな」
どこか寂しそうに呟く光に、小夜は励ますように言う。
「そんなことないよ。若い世代はあんまり知らないかもしれないけど、年輩の男性とかはジャズ大好きだよ。私もバーで演奏する時は必ずジャズも弾くようにしてるし」
「え? 小夜、バーでジャズ弾いてるんだ。聴いてみたい」
「いやいやいや、光くんに比べたら全然ですよ。音大で専攻してたのはクラシックだから」
必死に手を振って否定してから、小夜は「そうだ!」と思いつく。
「光くん、早速デモンストレーションでジャズピアノ弾いてくれない? 店長に聞いてくるから!」
そう言うと、返事も待たずに小夜はカウンターに向かった。
「店長! 光くんにデモでジャズピアノ弾いてもらってもいいですか?」
「へえ、いいわね。私も聴きたい」
「はい! じゃあ早速お願いしてきます」
そしてまた光のもとへ戻る。
「光くん、弾いてみて」
「なんか小夜、ほんとに子どもみたいだな。ちょこまかどっか行ったと思ったら、目輝かせて戻って来るし」
「ね、ほら。みんなも集まってきたし、聴かせてよ」
「はいはい。ちびっこ小夜ちゃんにお願いされたら弾かなきゃな」
光はひょうひょうとしながらステージに上がり、ストンとピアノの前に座る。
しばらく天井を見上げたかと思ったら、いきなりジャン!とパワー全開で弾き始めた。
「す、すごっ」
思わず小夜は目を見開く。
うねるような音圧が押し寄せ、たたみかけるようなリズムに鼓動が速くなった。
(なにこれ。旋律も拍子も掴みどころがない)
伝わってくるグルーヴにただ呑み込まれそうになる。
全身の血が脈打つような興奮に包まれた。
「わあ、かっこいいね」
店内に入って来たばかりの女性客たちは、光のピアノに引き寄せられる。
楽譜のコーナーにいたギターを背負った若い男の子も、ステージの前までやって来た。
(やっぱりジャンルなんて関係ない。いいものはいいんだ)
小夜は改めてそう思いながら、生き生きと躍動するように演奏する光を見つめていた。