Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
最後の音を、まるで身体が跳ねるようにジャン!と光が響かせると、皆は一斉に拍手を贈る。
立ち上がった光は、にこっと人懐っこい笑顔を浮かべてからお辞儀をした。

「どうだった? 小夜」
「すっごかった! ジャズってああいうのを言うのね。私が弾いてたのはジャズじゃなかった」
「ははっ、なんだそれ」
「だって私の認識では、ジャズって『ズーダズーダ』って感じなんだもん。でも光くんのは全然違った」
「小夜、バーで『ズーダズーダ』弾いてたのか?」
「うん、今も弾いてる。やだ、恥ずかしくなってきちゃった。もう弾けない」
「いいじゃん、そういうのがいわゆるモダンジャズの王道だからさ。けど、ジャズは常に進化してる。遥か昔からの奏法を守り続けるクラシックとは違ってね」

うんうん、と小夜は頷いた。

「はあ、なんか新たな世界が開けた感じ。でも絶対に真似できないな」
「あっさり真似されたら、俺もへこむわ」
「そうだよね。光くんはアメリカの名門でしっかり学んできた優秀なジャズピアニストだもんね」
「小夜も音大でクラシック勉強したんだろ? 俺だって小夜の真似はできない。それでいいんだよ。音楽は一人一人違っててさ」
「そっか、そうだね。でも光くんにジャズ教えてもらいたい。私にできる範囲で取り入れたいんだ。バーのお客様に喜んでもらいたいから」
「そういうことなら、いつでもどうぞ」
「ほんと? 嬉しい! ありがとう」

さっきまでのわかり合えない関係ではなく、小夜は光との今後にわくわくし始めていた。
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