Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
住む世界
「でさ、ジャズで大事なのはやっぱりリズムとグルーヴよ。メロディは間違えてもいいけど、リズムがダサいのは絶対だめ」
「えっ、メロディは間違えてもいいの?」
「上手くごまかせばいいんだ。こういうもんだぜ? って、シラーっと。けどリズムがズレたりノリが悪いと話にならない」
「なるほど」

営業時間を終えた店内のピアノで、小夜は光にジャズの奏法を教わっていた。

「基本的に音の余韻は残さない。お尻はスパッと切って、休符を立てる。アクセントも裏拍で感じて、シンコペーションの食いつきはハッキリ」
「こんな感じ?」
「だめ、もっと早く強く。食いつかなきゃ逆に食われる、みたいな危機感持って」
「えー、そんな物騒な」

音大で習ったこととはまったく違う。
光の言葉のすべてが、小夜にとっては目からウロコだった。

「この音は捨てていいんだよ。あと、この音も」
「捨てるー? え、音って捨てていいものなの?」
「そう。燃えるゴミ」
「いやいや、違うでしょ」
「一音も粗末にしちゃいけないクラシックとは違うんだ。ジャズは捨てる音あれば拾う音あり」
「それ、神でしょ?」
「うん。ジャズの神様」

真面目なのかジョークなのか、光の会話にはとにかく振り回される。
けれどジャズの弾き方は、これまで知らなかったことばかりで勉強になった。

「あ、ちょっと掴めたかも。こういうこと?」

アクセントを裏拍で意識して弾いてみる。

「おおー、近いな。それがもうちょっとこなれた感じになると良き」
「わかった。お風呂上がりにビール飲んで、ヘベレケになって弾いたらいいかも」
「小夜、お前独特だな」
「光くんほどじゃないから」
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