Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
椅子に座ると両手を握りしめ、小夜は大きく息を吸う。

(弾こう、あの曲を。彼の演奏を聴いた時と同じ、この場所で)

小さく頷くと、ゆっくりと鍵盤に両手を載せて奏で始めた。

Sarah McLachlanの『ANGEL』

あの時、想はどんな気持ちでこの曲を弾いていたのだろう。
そう思いながら、小夜はピアノに心を委ねる。

どうにもならない孤独と辛さ。
想はそれを静かに受け止め、この曲に気持ちを乗せたのだろうか。

言葉では言い表せない想い。
誰にも打ち明けられない心の内。
それらをすべて、ピアノの音に込めて。

そんな演奏にどうしようもなく惹かれて、心を奪われた。
だからあの夜を一緒に過ごしたのだ。
互いの魂が引き寄せ合うように。

(私はあの夜、一生分の恋をした。あなたとの思い出さえあれば、この先も幸せに生きていける)

ふと視線を上げると、窓の外に月明かりが見えた。

(あの夜のブルームーンは、たとえひとときでも彼を幸せにしてくれた?)

そうだといい。
小夜は願うように心の中で歌詞を呟いた。

May you find some comfort here……
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