Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
「あの日、ブルームーンのあの夜に君と過ごした時間が忘れられなかった。忘れようとしたけど、どうしても無理だった。自分の気持ちを持て余し、なんとか区切りをつけたくて『小夜曲』を作った。今夜あの思い出のバーで演奏して、それで終わりにするつもりだったんだ」
「そうでしたか」

静かに二人で語り合う。

「私もです。どうしても忘れられなかった。逆にどんどん想いが膨らんでしまって……。あなたがあのブルームーンの夜、どんな気持ちでピアノを弾いていたのか、これまでどんな辛い気持ちを抱えてきたのかに気づいてしまったから」
「俺の、気持ち……?」
「ええ。あの夜、あなたが弾いた曲がすべてを物語っていました。『HONESTY』『デスペラード』そして『ANGEL』。あなたの想いが溢れた演奏だったから、私はあんなにも心奪われた。それを思い知るばかりでした。どうして私はあの時、あなたのその気持ちに気づかなかったんだろうって、なにもできなかった自分が歯がゆくて……。あの夜に時間が戻れば、私は少しでもあなたを癒やしたい。そう思いながら、今夜『ANGEL』を弾きました」

小夜の言葉に、想は胸を打たれた。
自分ですら自覚しようとしなかった気持ちを、小夜は感じ取ってくれていたのだ。
そしてずっと想いを馳せてくれていた。
それだけで充分救われた気がした。
自分の魂が小夜を求めて、探し続けていたようにさえ感じる。

(このまま離れるなんてできない。今夜会えたのだって、きっとその為なんだ)

想は込み上げる強い想いをグッとこらえながら、決意を固めた。
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