Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
「小夜、俺のそばにいてほしい」
ハッと顔を上げた小夜を、想は真っ直ぐに見つめる。
「離れたくない、離れられないんだ。俺には、小夜が必要だから」
「でも……」
「俺のわがままだってわかってる。小夜は俺といても、いいことなんてなにもないかもしれない。もっと他にいい男だっているだろう。だけどこれだけは約束する。小夜を大切にすると」
小夜はなにも答えられずに、ぽろぽろと涙をこぼした。
想は優しく小夜を抱き寄せる。
「俺では小夜の心を癒やせない? 俺だって小夜を守りたいんだ。そばにいさせてくれないか?」
腕の中で、小夜は小さく首を振った。
「……小夜?」
「だめ」
「え?」
「そんなこと、できません。だってあなたは、私とは住む世界が違うから」
「どうしてそんなことを? ひょっとして、俺の仕事のことか? そんなの関係ない」
「関係あります!」
強い口調で顔を上げた小夜に、想は驚いて腕を緩める。
「あなたにはたくさんのファンがいます。コンサートのあとにこのホテルに追いかけてきた女の子たちや、あなたのピアノの楽譜を嬉しそうに買って行く人。あなたが曲に込めた想いを感じて、コンサートを聴きに行きたいと言う男性だっている。あなたはそれほどまでに影響力のあるアーティストなんです。才能があって努力を惜しまない、ほんの一握りの音楽で生きていける人。私たちとは違います」
「だからって! 俺が小夜を選んだのとは関係ないだろう? これは俺のプライベートだ」
「ファンはあなたのプライベートも含めてあなたのことが好きなんです。ファンにとっての夢であり、恋人でもある。あなたはそういう存在です」
想はグッと奥歯を噛みしめる。
「……随分残酷なことを言うんだな。俺にプライベートを犠牲にしろと? ファンの為に、本当に好きな女を諦めろって? 俺には幸せになる権利はない、そういうことか」
「違います! そうじゃない」
「じゃあなんだって言うんだ!?」
思わず声を荒らげると、小夜は目に涙をいっぱい溜めて必死に想を見上げた。
「私はあなたにふさわしくない。あなたは、華やかな世界にいる才能溢れる女性と結ばれるべきだから。あなたと釣り合う美しい人。ファンの誰もが認めるような、『アーティスト 想』の恋人としてふさわしい女性と」
「勝手に決めるな。俺が小夜を選んだ。小夜じゃなきゃだめなんだ」
「でも、あなたがここまで築き上げてきたキャリアを奪うことになったら? そんなことはさせられません」
「ならアーティストは辞める」
小夜は目を見開いて息を呑む。
「俺、本気だから。小夜を失ってまでやる価値なんてない」
「なんてこと言うの? たとえ気の迷いでもそんなこと口にしないで。今までたくさんの時間とエネルギーを注ぎ込んで、やっと叶えた夢でしょう? ファンの人だって、あなたから幸せをもらってる。それなのに」
「だったら!」
小夜の言葉を遮って、想は小夜をかき抱く。
「お願いだ、そばにいてくれ。アーティストとしても、俺自身も、小夜が必要なんだ」
「でも……」
「他に好きなやつがいるのか? 俺との関係は、どうしても嫌か?」
「ううん、そんなことない」
「それなら頼む。俺から離れていかないでくれ。心から好きなんだ、小夜のことが」
そっと顔を上げた小夜の目から涙がこぼれ落ちる。
想は指先で優しくその涙を拭い、綺麗な瞳に語りかけた。
「小夜のピアノは、俺への愛で溢れてた。でなければあんな音は出せない。違うか?」
小夜の瞳が涙で潤み、まつ毛がかすかに震えた。
「……違わない。私の心も、あなたへの愛で溢れてる」
「小夜……」
想の心に幸せが広がり、胸がジンとしびれる。
「やっとこの手の中に戻って来てくれた。今度こそ逃がさない」
小夜をギュッと抱きしめ、その温もりを確かめながら、想は胸が震えるほどの喜びを噛みしめていた。
ハッと顔を上げた小夜を、想は真っ直ぐに見つめる。
「離れたくない、離れられないんだ。俺には、小夜が必要だから」
「でも……」
「俺のわがままだってわかってる。小夜は俺といても、いいことなんてなにもないかもしれない。もっと他にいい男だっているだろう。だけどこれだけは約束する。小夜を大切にすると」
小夜はなにも答えられずに、ぽろぽろと涙をこぼした。
想は優しく小夜を抱き寄せる。
「俺では小夜の心を癒やせない? 俺だって小夜を守りたいんだ。そばにいさせてくれないか?」
腕の中で、小夜は小さく首を振った。
「……小夜?」
「だめ」
「え?」
「そんなこと、できません。だってあなたは、私とは住む世界が違うから」
「どうしてそんなことを? ひょっとして、俺の仕事のことか? そんなの関係ない」
「関係あります!」
強い口調で顔を上げた小夜に、想は驚いて腕を緩める。
「あなたにはたくさんのファンがいます。コンサートのあとにこのホテルに追いかけてきた女の子たちや、あなたのピアノの楽譜を嬉しそうに買って行く人。あなたが曲に込めた想いを感じて、コンサートを聴きに行きたいと言う男性だっている。あなたはそれほどまでに影響力のあるアーティストなんです。才能があって努力を惜しまない、ほんの一握りの音楽で生きていける人。私たちとは違います」
「だからって! 俺が小夜を選んだのとは関係ないだろう? これは俺のプライベートだ」
「ファンはあなたのプライベートも含めてあなたのことが好きなんです。ファンにとっての夢であり、恋人でもある。あなたはそういう存在です」
想はグッと奥歯を噛みしめる。
「……随分残酷なことを言うんだな。俺にプライベートを犠牲にしろと? ファンの為に、本当に好きな女を諦めろって? 俺には幸せになる権利はない、そういうことか」
「違います! そうじゃない」
「じゃあなんだって言うんだ!?」
思わず声を荒らげると、小夜は目に涙をいっぱい溜めて必死に想を見上げた。
「私はあなたにふさわしくない。あなたは、華やかな世界にいる才能溢れる女性と結ばれるべきだから。あなたと釣り合う美しい人。ファンの誰もが認めるような、『アーティスト 想』の恋人としてふさわしい女性と」
「勝手に決めるな。俺が小夜を選んだ。小夜じゃなきゃだめなんだ」
「でも、あなたがここまで築き上げてきたキャリアを奪うことになったら? そんなことはさせられません」
「ならアーティストは辞める」
小夜は目を見開いて息を呑む。
「俺、本気だから。小夜を失ってまでやる価値なんてない」
「なんてこと言うの? たとえ気の迷いでもそんなこと口にしないで。今までたくさんの時間とエネルギーを注ぎ込んで、やっと叶えた夢でしょう? ファンの人だって、あなたから幸せをもらってる。それなのに」
「だったら!」
小夜の言葉を遮って、想は小夜をかき抱く。
「お願いだ、そばにいてくれ。アーティストとしても、俺自身も、小夜が必要なんだ」
「でも……」
「他に好きなやつがいるのか? 俺との関係は、どうしても嫌か?」
「ううん、そんなことない」
「それなら頼む。俺から離れていかないでくれ。心から好きなんだ、小夜のことが」
そっと顔を上げた小夜の目から涙がこぼれ落ちる。
想は指先で優しくその涙を拭い、綺麗な瞳に語りかけた。
「小夜のピアノは、俺への愛で溢れてた。でなければあんな音は出せない。違うか?」
小夜の瞳が涙で潤み、まつ毛がかすかに震えた。
「……違わない。私の心も、あなたへの愛で溢れてる」
「小夜……」
想の心に幸せが広がり、胸がジンとしびれる。
「やっとこの手の中に戻って来てくれた。今度こそ逃がさない」
小夜をギュッと抱きしめ、その温もりを確かめながら、想は胸が震えるほどの喜びを噛みしめていた。