Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
クリスマスの夢
「小夜、夕べいつ帰ったんだ?」

翌朝。
楽器店に出勤すると光が真っ先に尋ねた。

「俺、あれからずっと一階のロビーで待ってたんだけど、一時間経っても下りて来なかっただろ?」

あ……と、小夜は言葉に詰まる。
あれからエレベーターで地下駐車場に下り、想に車で自宅マンションまで送ってもらっていた。

「えっと、マスターと話し込んじゃって。ごめんね。先に帰ってってメッセージ送っておいたけど」
「うん、見た。けど、女の子をあんな夜更けに一人にするもんじゃないからさ」
「そっか、ごめんね。そうそう! 改めて夕べはありがとう。お客様もマスターも、光くんの演奏、すごく喜んでくれてたよ。私も楽しかった」
「ああ、俺も。やっぱり誰かに聴いてもらうのっていいな。俺、もっとちゃんと演奏活動していくよ」
「うんうん。光くんならあっという間に引っ張りだこになるよ。またあのバーでも一緒に弾いてね」
「おう!」

今日はクリスマス。
店内も赤と緑のカラフルな飾りを施し、スタッフはサンタ帽をかぶって接客する。
営業時間が終わると、若いスタッフはそそくさとデートに向かった。

「お先に失礼します!」
「はーい。楽しいクリスマスを」

笑顔で見送っていると、光が近づいてきた。

「じゃ、俺たちもデート行くか」
「行きません」
「なんだよー。クリスマスくらい、いいだろ?」

するとカウンターにいた店長が顔を上げた。

「あ、光くん。今夜暇なら残業つき合ってくれない? みんなデートでさっさと帰っちゃって……」
「あっ! 俺ものっぴきならない用事を思い出しました。お先にー!」

脱兎のごとく去っていく光に、逃げられた!と店長は憤慨する。
小夜は苦笑いしながらカウンターに戻った。

「店長、私が残業おつき合いします」
「いいの? ありがとう、小夜」
「いいえ。クリスマスの装飾、撤去しますね」
「うん、お願い」

二時間ほど残業してから、小夜はロッカールームに荷物を取りに行く。
スマートフォンを見ると、想からメッセージが来ていた。

【お疲れ様。今夜はここに泊まってるから、もしよければ小夜も来て】

その下にホテルのURLが添えられている。
ここからも近い、海に面したラグジュアリーなホテルだった。

(クリスマスの夜なのに、お部屋空いてたのかな?)

そう思いながらホテルのホームページを開くと、トップに今夜のイベントの案内が載っていて驚く。

(えっ、今夜限りのツリーの点灯イベント? そこで想がピアノの弾き語りしたんだ。あー、聴きたかったー!)

悔しさに悶絶するが、ハッと我に返ってメッセージを送った。

【お疲れ様です。今仕事が終わったので、これから向かいます】

するとすぐに既読になる。

【2701号室で待ってる。気をつけておいで】

ふふっと頬を緩めてから小夜はバッグを肩に掛け、軽やかにロッカールームを出た。
< 73 / 123 >

この作品をシェア

pagetop