Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
ホテルの二七階に着き、小夜はそっと角から通路を覗き込む。
誰もいないのを確かめると、ササッと部屋に向かった。

番号を確かめてから、チャイムを押す。
すぐにカチャッとドアが開いて、想が顔を覗かせた。
小夜はとにかく誰にも見つからないようにと、急いでドアの中へと入る。
すると想がギュッと抱きしめてきた。

「え? あの……」
「なに、俺の胸に飛び込んでくるほど会いたかったの?」
「ち、違います! 人に見られたら大変だから、早く入らなきゃと思って」
「なんだ。俺はすぐに抱きしめたくなるほど会いたかったのに」
「え……」

ドアの前で抱きしめられたまま、想のささやきが甘く耳に響く。

「まだ信じられなくて……。またあの夜みたいに、小夜が俺の腕からすり抜けていく気がしてたんだ。だからこうして抱きしめられることが、ただ嬉しい」

切なさに小夜の胸が詰まる。

「私も。なんだか夢の中にいるみたい。クリスマスだけの夢なのかな?」

想は思い出したように苦しげに呟いた。

「夢じゃない。だから目が覚めてもいなくなるな。小夜、頼むから」
「うん……」

小夜も想の背中にそっと手を回し、キュッと小さく抱きしめる。

「ふっ、可愛いな」
「なにが?」
「俺の胸に顔をうずめて、ちょっとだけ抱きついてる小夜が」
「え、どういうこと?」
「小夜のすべてが可愛くて愛おしい」

思わず顔を上げて視線を合わせると、想の瞳が切なげに揺れた。
ゆっくりと顔を寄せられ、小夜は静かに目を閉じる。
唇に落とされるキスは、温かく柔らかい。
まるでピアノに触れる指のように。

小夜の胸に幸せが込み上げ、まつ毛が涙で濡れた。

「小夜、愛してる」

耳元でささやかれた愛の言葉は、想のピアノの音色のように、小夜の心を切なく締めつけていた。
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