Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
「わあ、すごいごちそう!」

ルームサービスのクリスマスディナーを前に、小夜は目を輝かせる。
ホテルがイベントの控え室として想に用意してくれたのは、セミスイートルーム。
豪華なダイニングテーブルに向かい合って座り、夜景を見ながらワインで乾杯した。

「こんなに幸せなクリスマスは初めて」

笑顔でそう言ってから、小夜は思い出したように拗ねた顔をする。

「今夜、ツリーの点灯イベントで演奏したんでしょう? 聴きたかったなあ」
「仕方ないだろ? 誰かさんが俺に興味なくて、知らなかったんだから」

うっ……と小夜は言葉を詰まらせた。

「ごめんなさい。今からファンクラブに入ります」

すると想は吹き出して笑った。

「ははっ! 今から? 随分会員番号後ろの方だぞ?」
「だってあなたのことはずっと忘れようとしてたから。考えちゃいけないって思ってたの。二度と会うつもりもなかったし」
「ふうん。それで小夜は平気だったのか?」
「平気じゃなかったけど、平気なフリして慣れるしかなかった」
「そうか……」

声のトーンを落とした想に、小夜が身を乗り出す。

「ねえ、想って素敵な名前だね。私、思いって普通に書くより、想の漢字の方が好きなの。名前の由来、私と似てるって前に言ってたよね。もしかして、夜想曲?」
「ああ。母親がピアニストなんだ」
「そうだったのね。うちは両親が高校の弦楽部でヴァイオリン弾いてたからなの」
「へえ。そこで知り合って、そのまま結婚まで? すごいな」
「二人とも音楽が趣味だから、気が合うみたい。月に一度はクラシックのコンサートを一緒に聴きに行ってる」
「いいな、そういうの。憧れる」

そう言うと、想は小夜を見つめて優しく微笑む。

「俺も小夜とそうなりたい」
「えっ……」

それってどういう意味だろうと考えて、小夜は顔を赤くした。

「小夜、なにを想像してる?」
「えっ、な、なにも」
「そんなに真っ赤になって?」
「それは、あの、ワインに酔ったから」
「へえ? じゃ、あとで確認しよう」
「なにを?」

想はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

「俺がベッドで小夜に愛をささやいても、顔が赤くならないかどうか」

もはや小夜は絶句する。
火照った顔を見られたくなくてうつむいていると、想は急に真顔に戻って立ち上がった。
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