Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
「小夜」

優しく手を取ると小夜をソファに連れていく。
並んで座ると、想はしばらく小夜の手を握ったままじっとうつむき、思い切ったように顔を上げた。

「小夜、もしかして………。あの夜、初めてだった?」

小夜は思わず息を呑んで身を固くする。

「やっぱりそうだったのか」
「あの、ごめんなさい。黙ってて」
「違う、そうじゃない。俺、嬉しくて……」
「え?」

想は赤くなった顔を右手で覆って、視線をそらした。

「俺が初めてだなんて、男としてこんなに嬉しいことはない。だけど小夜は後悔しなかったかと、ずっと気になってた。俺はちゃんと、小夜を気遣って優しくできたか? 小夜を怖がらせなかったか?」
「ううん、そんなことない」

小夜は正面から想を見つめる。

「私ね、あの夜、一生分の愛をもらったと思ったの」
「……え?」
「確かに、ちゃんとつき合ってる訳でもない人とそうなるなんて、思ってもみなかった。だけど、少しも後悔なんてしていない。あなたに出逢えて、本当によかった。あの夜の思い出を大切に胸にしまって、この先も生きていこうって思ってた」
「小夜……」

想はたまらないというようにクッと表情を歪めて、小夜を抱きしめる。

「ありがとう、小夜。ずっと大切にする」
「うん。ありがとう、……想」

想は小夜に微笑むと、切なげに瞳を潤ませてから、優しい優しいキスを贈る。
髪をなでる指、頬を包む手のひら、抱き寄せる腕、そして温かく柔らかい唇。
小夜に触れる想は、どこもかしこも愛で溢れていた。
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