Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
『バレンタインの愛の曲か……』

その日の夜遅く、早速電話で相談すると、想も真剣に考え始めた。
久しぶりに聞く想の声に少しドキッとして、小夜は顔を赤らめる。
お正月に会った切り、半月ほど顔を合わせていなかった。
想が忙しいのもあるが、小夜はなるべく会う回数を減らそうと思っていた。
誰かに見られては困るし、こうして電話をするだけで充分幸せだから。

(でもそろそろ会いたいな)

本題とは別のことを考え始めた小夜は、いけない、と真顔に戻る。

「想、なにか思いつかない? お母さんからクラシックピアノ教わってたんだよね?」
『ああ。だけどビシビシしごかれただけで、曲の思い出なんてほとんどないな。ましてや、愛の曲なんて』
「そ、そうなのね。想のお母さんって、厳しかったんだ」
『普段はおっとりしてるけどな。ピアノ弾くと人が変わる感じ』
「へえ。想の今の活躍も、喜んでくれてるでしょうね」
『いや。俺がクラシックの道に進まなかったから、見捨てられたかな。どんな曲書いてるかなんて、きっと知らないと思う』
「そうなの?」
『ああ。年の離れた高三の妹がいてさ、音大に推薦で受かったから、そっちに大喜びしてる』

初めて聞く話に、小夜は興味津々になった。

「想、高校生の妹さんがいるんだ! 美人でしょうねえ。彼氏とかいるんでしょ?」
『知るかよ。そんなの兄貴に知られたくないだろうし』
「確かに。私もお兄ちゃんには知られたくないな」
『小夜も兄弟いるんだ』
「うん。三歳年上の二十七歳で、普通のサラリーマンやってる」
『えっ、俺と同い年じゃないか? 来月、俺も二十七になるから』
「ほんと? やだ! お兄ちゃんと想なんて全然違う……ってそうじゃなくて。想、来月お誕生日なの? 何日?」
『十五日』

ということは、バレンタインデーの翌日になる。

「私、張り切ってお祝いしたい! その日、ちょっとだけでも会えない?」
『お祝いなんていいよ。けど、小夜には会いたい』
「じゃあバレンタインデーの演奏が終わったら、ホテルの部屋で会わない? そうすればバレンタインも一緒に過ごせるし、十五日に日付けが変わった瞬間にお祝いできるから」
『わかった、ありがとう。仕事が終わったらすぐに向かう』
「うん! 部屋の予約は私がしておくね。ふふっ、楽しみ!」
『俺もだ』

心は早くもバレンタインデーに行ってしまい、肝心の曲の相談もしないまま、二人はひたすら待ち切れないとばかりにわくわくしていた。
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