Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
ドクッと想の心臓が脈打つ。
小夜はにっこり微笑むと、客席の間を縫ってステージへと歩み寄る。
男性が手を差し伸べて小夜を隣に立たせると、うやうやしくバラの花を差し出した。
小夜は両手でバラを受け取り、笑顔で軽く膝を曲げる。
そして二人で観客に深々とお辞儀をした。

拍手が止むと二人は向かい合ってピアノに座る。
アイコンタクトを取ってから、小夜がパッヘルベルのカノンを弾き始めた。
澄んだ音色はたちまち店内を明るく輝く雰囲気に染める。
すると途中で男性がメロディを引き継ぎ、スウィングの要素を加えた。
雰囲気がガラリと変わる。
しばらくすると小夜が引き取り、ワルツ風の三拍子で演奏する。
次は男性がタンゴ風に、その次は小夜がバラードのようにしっとりと。

息つく暇もなく、観客は音楽の波に呑み込まれた。

ボサノバ風のあとは、壮大なコンチェルトのように。
ゴージャスなジャズ風のあと、ようやくオリジナルの落ち着いたカノンに戻った。

小夜が美しく奏で、男性が即興で華やかな対旋律を弾く。
テンポを緩めて二人はアイコンタクトを取りながら、ラストの音を息を揃えて響かせた。

静寂のあと、ため息混じりの拍手が起こる。

「はあ、素敵」

そんな女性の感想が聞こえてきた。

彼は小夜の手を取ってステージの前に送り出し、自分は一歩下ったところで拍手に応えてお辞儀をする。
小夜が振り返って彼に手を伸ばし、観客の拍手を促した。
深々と頭を下げてから、彼はステージを降りた。
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