Blue Moon〜小さな夜の奇跡〜
ダブルアンコールは、また男性もステージに上がり、小夜と二人で『Stand by me』を演奏する。
右手でフィンガースナップをしながら弾く男性に促され、観客も手拍子で盛り上がった。

コンサートが終わり、誰かに見つからないうちにとバーを出ると、ピアニストの男性が追いかけてきた。

「ちょっと待て」

想は少しだけ顔を振り向かせる。

「小夜の男って、あんただろ?」

いきなり不躾に言われて、想は短く答えた。

「それがどうした」
「あんた、本気で小夜を幸せにするつもりあんのか? 今まで散々不安にさせたり、放ったらかしにしてきたんだろ。今更なんて言って近づいたのか知らないけど、諦めかけてた小夜を中途半端に振り回すのなら別れてくれ」

想はキュッと眉根を寄せると、正面から向き直った。

「言いたいことはそれだけか?」
「……なに?」

男性がピクリと頬を引きつらせる。

「奪えるものなら奪ってみろ。俺は絶対に小夜を離さない」

低い声でそう告げると、想は踵を返して立ち去った。
< 96 / 123 >

この作品をシェア

pagetop