策士の優男はどうしても湯田中さんを落としたい

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今から四年前。
中瀬祐(なかせたすく)がこの会社に入社して、二週間目の春のこと。

「じゃあ、この資料作ってみて。分からないところは聞いて」

湯田中瑠璃(ゆだなか るり)は、軽く笑って祐にファイルを手渡した。
その笑顔は、四歳年下の新人にとってはすごく落ち着いていて、そしてどこか隙がない。

「了解です。……あの、先輩、ちょっと休んだらどうですか?」

「え?」

「いや、ずっと忙しそうだから。休憩あんまり行ってないし」

「あー……ちょっとバタバタしてるだけ。大丈夫。気にしないで」

そう言いながらも、瑠璃の目の下には、かすかにクマが浮かんでいる。


髪はいつもひとつ結びで、服もきちんとしているけど、よく見るとボタンの糸がほつれていたり、ところどころ抜けている。
きれいなのに、どこか無頓着な人だ。

一方、瑠璃はというと──

(やっと新人が入ってくれて助かった……)

正直、それしか考えていなかった。

祐が女性社員たちから「イケメンすぎる」と騒がれているのも、瑠璃にはあまり耳に入っていない。

家のこと、仕事のこと、自分のことで手いっぱい。

祐を異性として意識する余裕なんて、欠片もなかった。

「じゃ、頑張ってね。私はちょっと打ち合わせ行ってくる」

軽やかに去っていく瑠璃を、祐は目で追う。
口元にごく僅かに浮かぶ笑みは、誰にも見られていない。

(……まさか、この人のことをたまらないくらい愛することになるなんてな)

その時は、祐自身すら思っていなかった。
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