策士の優男はどうしても湯田中さんを落としたい
2
中瀬祐が、自分が「人よりモテる」と自覚したのは、保育園の年中の頃だった。
昼休み、砂場に行こうとすれば女子が先回りして待っていて、ブロック遊びをすれば、いつのまにか“中瀬くんチーム”と“その他”に分かれていた。
先生が笑って言ったことがある。
「祐くんと結婚したい子、手あげて〜!」
全員が、競うように手を挙げた。
それを見て、祐は笑った。
笑いながらも、心のどこかで冷静にこう思っていた。
(……これ、たぶんずっとこうなんだろうな)
小学校では、廊下に“祐先輩ファンクラブ”の張り紙があった。
中学では、誰が告白して振られたかが学年中の話題になった。
高校では、学園祭の実行委員に名ばかりで選ばれた。顔採用だった。
芸能事務所の名刺は、制服のポケットの中に数枚入ったままになっている。
街を歩けばスカウトに声をかけられるし、SNSでは顔写真ひとつでフォロワーが急増した。
でも、祐は浮かれなかった。
勉強は嫌いじゃなかったし、運動もそこそこ。
努力することが格好悪いとは思わなかった。
なにより──
「モテるだけの人生って、コスパ悪いな」
そう思っていた。
どうせなら、もっと“うまく”生きたい。
持っているルックスを、どう使えば得になるのか。
誰に好かれ、誰を味方につけ、誰を避けるべきか。
祐は、恋愛も友情も、仕事ですらも、「ゲームのようなもの」として頭の中で組み立てていた。
ただし、誰にもそれを悟らせない。
自然に。
優しく。
空気を読んで、期待に応える。
そうして祐は、他人に嫌われず、好かれすぎず、うまく泳いできた。
──はずだった。
あの人に会うまでは。
湯田中瑠璃。
彼女は祐を特別扱いしなかった。
最初から“ただの新人”として接してきた。
仕事の説明は的確で、甘やかしもしない。
初めてだった。
自分の顔を一瞥して、心からどうでもよさそうに「じゃあ、やってみて」と資料を渡す人。
(ああ、この人は俺に興味ないんだ)
それが、むしろ面白かった。
この人に、少しだけ興味を持たせたらどうなるんだろう。
好きとか、恋とかじゃない。
ただ、“彼女の視界”に、自分が入ったら。
そう思っただけなのに──
気づいたときには、彼女を“外せない”自分がいた。
その感情に気がついたのは、もう少し先のお話し。
昼休み、砂場に行こうとすれば女子が先回りして待っていて、ブロック遊びをすれば、いつのまにか“中瀬くんチーム”と“その他”に分かれていた。
先生が笑って言ったことがある。
「祐くんと結婚したい子、手あげて〜!」
全員が、競うように手を挙げた。
それを見て、祐は笑った。
笑いながらも、心のどこかで冷静にこう思っていた。
(……これ、たぶんずっとこうなんだろうな)
小学校では、廊下に“祐先輩ファンクラブ”の張り紙があった。
中学では、誰が告白して振られたかが学年中の話題になった。
高校では、学園祭の実行委員に名ばかりで選ばれた。顔採用だった。
芸能事務所の名刺は、制服のポケットの中に数枚入ったままになっている。
街を歩けばスカウトに声をかけられるし、SNSでは顔写真ひとつでフォロワーが急増した。
でも、祐は浮かれなかった。
勉強は嫌いじゃなかったし、運動もそこそこ。
努力することが格好悪いとは思わなかった。
なにより──
「モテるだけの人生って、コスパ悪いな」
そう思っていた。
どうせなら、もっと“うまく”生きたい。
持っているルックスを、どう使えば得になるのか。
誰に好かれ、誰を味方につけ、誰を避けるべきか。
祐は、恋愛も友情も、仕事ですらも、「ゲームのようなもの」として頭の中で組み立てていた。
ただし、誰にもそれを悟らせない。
自然に。
優しく。
空気を読んで、期待に応える。
そうして祐は、他人に嫌われず、好かれすぎず、うまく泳いできた。
──はずだった。
あの人に会うまでは。
湯田中瑠璃。
彼女は祐を特別扱いしなかった。
最初から“ただの新人”として接してきた。
仕事の説明は的確で、甘やかしもしない。
初めてだった。
自分の顔を一瞥して、心からどうでもよさそうに「じゃあ、やってみて」と資料を渡す人。
(ああ、この人は俺に興味ないんだ)
それが、むしろ面白かった。
この人に、少しだけ興味を持たせたらどうなるんだろう。
好きとか、恋とかじゃない。
ただ、“彼女の視界”に、自分が入ったら。
そう思っただけなのに──
気づいたときには、彼女を“外せない”自分がいた。
その感情に気がついたのは、もう少し先のお話し。