策士の優男はどうしても湯田中さんを落としたい

8

ゼミの飲み会も終盤。
視界の隅に、楓がこっちをうかがっているのが見える。

楓がスッと隣の席に滑り込んできた。
氷がカラン、とグラスにあたる音がやけに大きく響く。

「祐くん、さっきから元気ないじゃん?」

「別に」

祐はにっこり笑うけれど、淡々と答える。
楓は頬杖をついて、じっと祐を覗き込む。

「ねえ…祐くんって、会社でも人気ありそうだよね?」

「何言ってんだよ」

軽く笑って流す。
楓はにこにこと笑いながら、いきなり切り込んだ。

「祐くんさぁ、キャバクラとか行ったりするの?」

祐の手が一瞬止まった。
けれどすぐ、何事もなかったようにグラスを置く。

「たまにはね。先輩に連れてかれることも多いし。」

「へぇー。じゃあさ、この間、行った?」

「どの間?」

「…ちょっと前。先輩たちと大きいプロジェクト終わったあととか?」

祐は目を細める。
楓はわかりやすく目をきらきらさせていた。

(妹…やっぱり先輩の妹か。)

「行ったけど、何?」

祐は笑った。
静かに、けれど底が読めない笑みだった。

祐は目を伏せて笑ったまま、彼女の顔をちらりと見る。

「──楓ちゃん。お姉さんのこと、心配?」

楓の目がわずかに揺れた。
けれどすぐに笑顔に戻る。

「別にー。お姉ちゃん、大人だし。」

「でも探り入れてるじゃん。」

祐が低く笑うと、楓はぷいっと視線を逸らした。

「…別に、誰にも言うつもりはないよ。」

「ホントー?」

「ホント。」

祐の目が、底の見えない湖みたいに静かに笑っていた。
楓は、くるりとストローをかじりながら、心底楽しそうに言った。

「じゃあさ。お姉ちゃんのこと──どう思ってるの?」

祐は少しだけ考えたあと、小さく笑った。

「──秘密。」
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