砂漠の王に捧げる夜 ―ただひとときでも、あなたの愛を―
その声には、憧れとも嫉妬ともつかない響きがあった。

ザヒーラ・アムジャド様――

名門貴族の娘にして、政治的な影響力を持つ家柄。

王が彼女を正妃にすれば、周囲の国々との貿易は確かに安定するだろう。

「いえいえ、ライラ様で決まりよ。」

別の側女が、笑いながらそう返す。

薄紅のヴェール越しに見えるその表情には、微かな含みがあった。

ライラ・ファイザ様――

ハーレム随一の美貌を誇る女性。

まっすぐに王の寵愛を求め、誰よりも「美しくあること」に執着している。

「顔よ、顔。正妃として隣に立つには、やっぱり見た目が大事。」

「でも、名門の後ろ盾も捨てがたいわ。」

「いっそ、両方正妃にしてしまえば?」

くすくすと笑い合う声が、ヴェールの奥から聞こえてくる。

私は黙って頭を下げながら、衣を所定の棚に収めていく。
< 12 / 30 >

この作品をシェア

pagetop