砂漠の王に捧げる夜 ―ただひとときでも、あなたの愛を―
会話の輪に入ることも、名前を呼ばれることもない。

ただ、静かに働くだけ。

けれど心のどこかで――

その名に並ぶはずのない自分のことを、ほんの少しだけ、想ってしまった。

“あの方の隣に立つのは、誰なのか”

……それが、私であるはずはないのに。

その日は、王専用の洗濯物を預かっていた。

カリーム王の衣は繊細な絹や細工入りのものが多く、扱いは慎重を極める。

たたんだ衣の一枚一枚に、あの方の体温や香りが残っている気がして、胸がざわつく。

「王の侍女は……?」

私が控えの間にいる別の侍女に尋ねると、彼女は少し慌てて言った。

「皆、ちょうど出払ってしまっていて。王の私室にも誰もいないはずですわ。」

「そう、ですか……」

困った。私は洗濯物を届けに来ただけなのに。
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