砂漠の王に捧げる夜 ―ただひとときでも、あなたの愛を―
カリーム王の私室は、妃たちしか立ち入ることが許されない場所。

私のような下働きの侍女が入るなど、厳しく禁じられている。

けれど今は誰もいない。

扉の前に立ち、廊下の左右を見回しても、人影はない。

「……ほんの少しだけ。置くだけ、だから。」

私はそっと扉を押した。

扉の向こうには、静寂が満ちていた。

香油と砂漠の草の混じった香りが、ふわりと鼻をくすぐる。

――これが、あの方の香り。

私は歩を進め、奥のソファーへと向かう。

深紅の絨毯に足音が吸い込まれていくのが分かる。

何かが壊れてしまいそうで、息を詰めるように歩いた。

そして、そっと洗濯物の束をソファーの端に置いた。

それだけのはずだった。

けれど――

指先が、王の衣の袖を撫でたとき、思わず立ち止まってしまった。
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