砂漠の王に捧げる夜 ―ただひとときでも、あなたの愛を―
目を閉じれば、そこにいるような気がして。

「……会いたいなんて、思ってはいけないのに。」

そう呟いたそのとき。

「ナディア。」

背後から、低く、深い声が降ってきた。

心臓が跳ねた。

振り向かずとも、その声が誰のものか、分かっていた。

「洗濯物か。ありがとう。」

カリーム王はソファの端に置かれた衣に視線を落とすと、ふいに私の方へと歩み寄った。

そして、首筋に顔を近づけてきた。

「……ユリーナの香りがする。」

「えっ……」

心臓が跳ねた。驚きと、少しの戸惑い。

私が、ユリーナ様と同じ香り……?

「遺品整理で染みついたんだろう。……いい香りだ。」

低く囁かれた声に、体が熱くなる。

私は何も言えず、ただ深く一礼すると、逃げるように部屋を後にした。

足音を聞かれないように静かに、でも早く。

けれど胸の鼓動だけは、どうしても抑えられなかった。
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