砂漠の王に捧げる夜 ―ただひとときでも、あなたの愛を―
ほんの一滴だけ。

私は香水瓶を胸元に傾け、そっと一かけ。

すぐに、あの優雅で懐かしい香りが、肌に広がった。

心がざわつく。これは偽りなのか、優しさなのか。

「……王は、執務室にいるはず。」

誰にも見つからぬように、私は静かに扉を開け、遺品室を出た。

その香りだけを、胸に忍ばせて――


執務室の前に立った私は、その前をそっと一往復した。

もし――もし、扉が少しでも開いていたなら。

中にいる王に、香りが届くかもしれない。

そんな都合のいい奇跡を願って、扉の隙間にそっと目をやった。

でも、ぴったりと閉じられていて、風ひとつ通さない。

「……これじゃ、匂いは届かない……」

落胆と同時に、ふいに誰かの視線を感じた。

振り向いた瞬間――

「きゃあっ!」

思わず、情けない声を上げてしまった。

そこには、カリーム王と執事が並んで立っていた。
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