砂漠の王に捧げる夜 ―ただひとときでも、あなたの愛を―
もっとこのままでいたい。

でも、これ以上一緒にいれば、何を言われるか分からない。

噂ひとつで、王の名を汚すようなことだけは、したくなかった。

「では……失礼いたします。」

深く一礼し、その場を離れる。

回廊の石畳に、私の足音だけが静かに響く。

離れていく距離が、心まで引き離していくようで、切なかった。

けれど、どうしても――

一度だけ、振り返ってしまった。

すると、カリーム王が微笑みながら、静かに手を振ってくれた。

胸がいっぱいになる。

それだけで、十分だった。

王が私を見てくれた、それだけで。

部屋に戻り、そっとカーテンをめくって回廊を見下ろすと、ちょうどカリーム王が帰るところだった。

ゆるやかな足取りで夜の石畳を歩く、その背中。

その広い背に、私はほんの少しだけ触れたのだ。

腕の中にいた時間は短かったけれど、あの温もりは、まだ私の身体に残っている。
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