砂漠の王に捧げる夜 ―ただひとときでも、あなたの愛を―
あの人の匂い、声、手の温かさ――

全部が、私の中に刻まれてしまった。

離れたくない。

もっと、もっと深く、あの人に包まれたい。

そう思ってしまう私は、もう――ただの侍女じゃいられない。

でも、あのとき誰かに見られていたという予感は――やっぱり、当たっていた。

しかも、予期せぬ相手に。

「あなたね、自分の身分を分かってるの?」

振り返ると、そこに立っていたのはザヒーラ様。

次の正妃候補として噂される、名門出身の妃だった。

「はい……」

私は短く、それだけ答えた。

「大体、侍女のくせによく王陛下に取り入ろうとしたわね。」

その言葉に、周囲の妃たちがくすくすと笑い声を漏らす。

「王陛下が夜伽の相手に指名するのは、ハーレムの中にいる妃達だけよ?」

笑いと蔑みの視線が突き刺さる。

私は、ただ下を向いて唇を噛んだ。
< 25 / 30 >

この作品をシェア

pagetop