砂漠の王に捧げる夜 ―ただひとときでも、あなたの愛を―
ある日、洗濯物を干し終えた帰りに、私はふと中庭の噴水の音に足を止めた。

光の差し込む白い石造りの水盤のほとり――そこに、あの方がいた。

カリーム王。

思わず息を呑んだ。

王は、いつものようなターバンも、ヒジャブも被っていない。

漆黒の髪をさらし、香油を手に取り、その長い髪に丁寧に塗り込んでいた。

それは、まるで儀式のように神聖で、触れてはいけない美しさだった。

……こんな真昼に、ヒジャブを取るなんて。

珍しい。

それほど、誰にも見せたくない大切な時間なのに。

気配に気づいたのか、王は顔を上げ、私を見た。

そしてすぐに、手元のヒジャブを頭に被った。

「君は、確か……」

「ナディアです。カリーム王。」

名を告げても、王はその名を繰り返さなかった。

呼ばれなかったことが、少しだけ胸を締めつける。
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