Still In Love
 バーのカウンターで並んで飲んでいたが、機嫌はちっともよくならない。
 私は、チラチラと時計ばかり見ては、
「そろそろ帰らない?」
 何度もそう言ったのに、
「終電までは、まだ時間があるよ」
 彼は彼で、そう言って譲らない。
 私も、まるで反撃に出るかのように、チラチラどころか、露骨に時計ばかり何度も見て、
「もうじき終電の時間だから、出ましょ」
 そう言って席を立つ。
 スギヤマの顔には、明らかに「まだ帰りたくない」と書いてあったが、私は敢えてそれを見て見ぬふりをした。


 バーを出て、足早に駅へと向かう途中、
「あっ⋯⋯!」
 私は、思わず立ち止まった。
「どうした?」
 心配そうな声でスギヤマが尋ねる。
「コンタクト落とした⋯⋯」
「ありゃりゃ⋯⋯。何処かなぁ」
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