野いちご源氏物語 三二 梅枝(うめがえ)
父君(ちちぎみ)からお(しか)りを受けたこともあって、
<やはり他の女性に心を移したら雲居(くもい)(かり)がお気の毒だ>
若君(わかぎみ)は真面目に思っていらっしゃる。
姫君(ひめぎみ)の方は、父君の内大臣(ないだいじん)様が近ごろますますお悩みのご様子なので、恥ずかしくつらい身の上だと(しず)んでおられる。
それでも表面上はおっとりとお暮らしになっている。

若君からのお手紙は、思いがあふれそうなときに心をこめて書かれたものが届く。
男性は恋文に適当な(うそ)を書くこともあると姫君はご存じだけれど、純真な方だから若君をお疑いにはならない。
感動しながらご覧になっている。

中務(なかつかさ)(みや)様が源氏(げんじ)(きみ)縁談(えんだん)をおまとめになったようでございます」
女房(にょうぼう)からこっそりとお聞きになった内大臣様はお胸をつぶされた。
すぐに姫君のところへ行かれる。
「若君は中務の宮様の婿君(むこぎみ)におなりになるそうですよ。ひどい方だ。源氏の君が私の態度に腹を立てて、別の縁談をまとめてしまわれたのだろう。今さらこちらから頭を下げるのも世間体(せけんてい)が悪い」
涙をためておっしゃるので、姫君も恥ずかしくて涙がこぼれる。
お顔を(そむ)けていらっしゃるのがおかわいらしい。

「どうしたらよいだろう。やはりこちらからお願いした方がよいだろうか」
混乱なさったまま父君がお部屋から出ていかれても、姫君はぼんやりしつづけていらっしゃる。
<涙が止まらない。父君はどうお思いになっただろう>
あれこれと思い悩んでいらっしゃるところに若君からお手紙が届いた。
「あなたのご冷淡(れいたん)さはふつうの大人の女性によくあることなのでしょうけれど、私はあなたのことが忘れられなくて、ふつうの大人の男はこうではないと思うのです」

<ご縁談のことはほのめかしもなさらないのか>
姫君は悲しみながらお返事をお書きになった。
「『忘れられない』とおっしゃりながら平気で忘れようとなさるのは、ふつうの大人の男性によくあることなのでしょうね」
若君は何の話かお分かりにならず、不思議そうにご覧になっている。
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