15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜
けれど、濃い紺色の傘が、まっすぐこちらに向かってくる。

――あっ、すれ違う。

思わず私は傘を少し横に向けた。

その瞬間、向こうの男性も同じように傘を斜めに傾ける。

静かな雨音のなかで、ふたりの傘がふわりと交差した。

そのとき、ほんの一瞬だけ彼の顔が見えた。

きれいな横顔。知的で冷たそうで、でも優しさも滲んでいて。

歳は三十代半ばくらいだろうか。

高級なスーツの胸元からは、大人の香りが静かに漂っていた。

まるで映画のワンシーンみたいに、その光景だけが切り取られて胸に残る。

私の世界とは違う人。手の届かない場所にいる人。

そう思っていた――

そして振り向くと、その人はすでに交差点を渡ろうとしていた。

スーツの裾が風に揺れ、濡れた足元を迷いなく進んでいく。

あ、行ってしまった。

さっきまで同じ場所にいたのに、もう違う世界の人みたい。

少しだけ、胸の奥が空っぽになったような気がした。
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