15歳差の御曹司に甘やかされています〜助けたはずがなぜか溺愛対象に〜
たぶん、この出会いは――

「あの人、かっこよかったな」で終わる、そんな一瞬の出来事。

名前も、声も、何も知らないまま、記憶だけに残る人。

そう思うと、出会いってなんなんだろう。

気づかなければ何も始まらないし、気づいたところで何かが起こるとも限らない。

でも、それでも。

たった数秒のすれ違いで、心が動くことがある。

知らない誰かに、少しだけ未来を重ねてしまうことがある。

私は交差点の向こう側を見つめた。

もう姿はなかったけれど、あの人の残像は、雨の中にまだ残っている気がした。

「あっ、買い忘れた。」

そう。雑貨屋に来て、お皿を買おうと思ったのに。

棚を見て、他の物に気を取られて、すっかり忘れていた。

また来ればいい。

でも、そのお皿を、今夜の食事で使いたい。

だから私は踵を返して、来た道を戻ることにした。
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