【シナリオ】となりの席の再挑戦(リスタート)
第13話
恋人になった朝、名前で呼ぶ日
日曜の朝。
昨夜の澪の告白から、一晩明けて。
しずくはまだ少し夢見心地のまま、澪の部屋のソファで目を覚ます。
毛布をかけたまま、薄い朝の日差しに包まれていた。
(しずく・心の声)
(夢じゃ……ないよね)
そっと視線を横に向けると、
キッチンの奥で澪がカップにコーヒーを注いでいる。
(澪)
「おはよう。……よく寝られた?」
(しずく・ぼそっ)
「……はい。あの、昨日のこと……」
(澪・やわらかく)
「覚えてるよ。“好き”って、ちゃんと伝えた。
……夢、じゃないよ」
マグカップを差し出す澪。
受け取る指が少し触れて、しずくはまた顔を赤くする。
(澪)
「それに、もう今日から恋人でしょ? 名前、呼んで?」
(しずく・ぎこちなく)
「な、名前……?」
(澪・笑って)
「呼び捨て。
ほら、“澪”って。昨日、あんなに甘えてたくせに」
(しずく・赤面)
「だ、だってあれは熱に浮かされてて……!」
澪がゆっくりと距離を詰める。
キッチンカウンターを挟んで、ふたりの間はもう30cm。
(澪・低い声で)
「……俺、君の声で名前呼ばれるの、すごく好き」
しずくがそっと目をそらしながら、
ぎゅっとマグカップを握る。
(しずく・小声で)
「……澪」
そのたった一言で、澪の表情がほどける。
一歩近づいて、しずくの頬にふわりと手を添える。
(澪・目を細めて)
「……かわいすぎる。
その声、ずっと俺だけのものにしたい」
(しずく)
「もう……朝から甘すぎです……」
澪が、そのままそっとおでこを重ねる。
ふたりの距離はゼロ。
吐息が混ざるほど、近い。
(澪)
「……キスしてもいい?」
(しずく)
「……はい」
目を閉じるしずくに、澪がそっと唇を重ねる。
やさしく、時間をかけて、確かめるように。
キスのあと。
静かに澪の腕の中にしずくが抱き寄せられる。
(澪・低くささやく)
「もう離したくない。
……朝から君に触れてないと、落ち着かない」
(しずく)
「……私も、です。
こんなに澪のことばっかりになるなんて……」
ぎゅっと抱き合うふたり。
朝の日差しが差し込む部屋は、恋人になったばかりの甘さに満ちていた。
それでもまだ、照れは残る。
朝食を作る横顔に見とれ、
名前で呼ぼうとして──やっぱり言えなくて、後ろから服の裾をつまむしずく。
(澪・気づいて)
「……しずく?」
(しずく)
「……“澪”って、今日あと10回くらい言えたら……
恋人らしくなれますか?」
(澪・微笑して)
「100回でも、1000回でも言って。
ぜんぶ、俺が甘やかすから」