【シナリオ】となりの席の再挑戦(リスタート)
第14話
ふたりで歩く、大学の春
⚪︎春のキャンパス。
桜の花びらが舞う大学構内。
ふたり並んで歩くのは、付き合ってはじめての登校日。
澪はいつも通り落ち着いた表情。
でも、しずくはなんだかそわそわしている。
(しずく・心の声)
(手、つなぎたいな……
でも誰かに見られたら、困るよね)
(澪・ふっと笑って)
「顔に出てるよ。……つなぎたい?」
(しずく・びくっ)
「っ……読まないでください、心の中!」
澪がくすっと笑いながら、
自分の手をしずくの視界の端に差し出す。
(澪・ささやくように)
「人通り少ないとこなら……いいでしょ?」
(しずく・ためらいがちに)
「……じゃあ、10歩だけ」
小さく、でも確かに手が重なる。
手のひらの熱が、胸までじわじわと広がる。
(しずく・心の声)
(手をつないで歩く、それだけなのに……
なんでこんなに、幸せなんだろう)
⚪︎昼休み。人の少ない4号館の隅にある空き教室。
澪がカギを開けて、しずくをそっと中へ。
(澪)
「30分だけ。
ここ、授業の準備で使われるの午後からだから」
教室の片隅。古い机にふたり並んで腰かける。
窓の外では風に揺れる桜。
(しずく)
「こういうの、ちょっと……
恋人っぽくて、ドキドキします」
(澪)
「……“恋人っぽい”じゃなくて、“恋人”なんだよ」
澪がゆっくりと距離を詰め、
机の上に置かれていたしずくの手を、上からそっと包む。
(澪・低く)
「ふたりきりだと、君が隣にいるって実感できる。……ちゃんと、独り占めしたくなる」
しずくの顔が真っ赤になる。
でも、彼女は小さく首を傾けるようにして、澪に寄りかかる。
(しずく)
「じゃあ……少しだけ。
澪の恋人っぽく、甘えてもいいですか?」
(澪)
「ううん。
“ぽく”じゃなくて、ちゃんと“甘えて”」
そのまま、しずくの髪にキスを落とす澪。
息を呑むしずく。
けれど、拒まない。むしろ──目を閉じる。
静かな空間。
外のざわめきは遠く、教室だけが時間を止めたように静かだった。
澪の手がそっとしずくの背中に触れ、彼女を胸元に引き寄せる。
(澪)
「……可愛すぎる。
教室で抱きしめたくなるなんて、学生時代ぶりだな」
(しずく・ふふっと笑って)
「“学生時代ぶり”って……今も学生じゃないですか」
(澪)
「君の前では、年齢とか全部忘れる。
ただの“恋してる人間”になる」
ふたりはしばらく、ただ寄り添っていた。
言葉はいらない。
鼓動の音だけが、静かに空間を満たしていた。
(しずく・心の声)
(好きになってよかった。
大人で、でも甘えたがりなこの人に……)
チャイムの音が遠くで鳴る。
(澪・小さく)
「また、ここで会おう。……“秘密の教室”、俺らの場所にしよう」
(しずく・そっと笑って)
「……はい。何回でも、来たいです」