私のテディベアに、私が溺愛されるまで
楓の気配が後ろでじっと固まっているのがわかる。
けれど一朗は振り向けなかった。
振り向いたら、きっと自分の顔を楓に見られてしまう。

(……何やってんだ、俺)

自分で楓を怒鳴っておきながら、胸の奥が痛くてたまらなかった。
楓は悪くない。
甘えてくるのは、昔からずっとそうだった。
ただそれだけなのに――

背中に押し当てられた楓の柔らかさ。
髪の香り。
細い指が自分のシャツを掴んだ感触。
全部が頭から離れない。

(妹みたいだと思ってたくせに、触れられただけで動揺して……)

馬鹿みたいだ、と自分を罵る。
心の奥では、あのまま楓を抱きしめ返したい衝動があった。
それが悔しくて、腹が立って、だから振りほどいた。

(……結局、俺が一番たち悪いじゃねえか)

怒鳴った言葉が、楓を傷つけたこともわかっている。
楓がさっき、一瞬泣きそうな顔をしたのを思い出し、胸がぎゅっと締めつけられる。

「……クソ……」

小さく吐き捨てるように呟いた。

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