私のテディベアに、私が溺愛されるまで

3

一朗に乱暴に腕をほどかれて、楓はふらりと後ずさった。
胸の奥が、きゅうっと苦しくなる。

(怒らせちゃった……)

一朗の声は低くて、鋭くて。
まるで針で刺されたみたいに、心が痛んだ。

だけど――

(……でも、動揺してた)

さっき、一朗の背中越しに感じた震え。
振り向けずに必死に台所に立つ背中。
そして、あの掠れた声。

(私のこと、妹じゃなく“女”って思ったからだよね……?)

胸がドクン、と熱くなる。
嬉しかった。
怖いくらい嬉しかった。
子どもの頃からずっと、一朗を好きで、一朗しか見てこなかった。
でも、一朗にとって自分はただの妹でしかなかった。

(それが……今、ほんのちょっとだけ、変わった気がする)

楓は自分の胸元をぎゅっと握った。
さっき乱暴に引き離されたとき、一朗の手がまだ震えていた気がする。
あれは、嫌悪じゃない。
きっと、戸惑いだった。

(私のこと、女として見てくれたんだよね……?)

確かに、一歩だけ進めた気がしたから。

楓はそっと、一朗の背中を見つめた。
広くて、いつも安心できる背中。
でも今日は、少し遠く感じた。

切ない気持ちを隠すように、楓は小さく笑ってみせた。
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