私のテディベアに、私が溺愛されるまで
ロータリー脇の街路樹の下。
一朗はスマホを見つめていたが、楓の足音に気づき、顔を上げた。


「適当に抜けろって何?」

楓は少し頬をふくらませながら言った。
一朗は視線をそらし、ポケットから手を出して首の後ろを掻いた。

「……いや、ただ一緒に帰ろうかなと思っただけ」

「え?」

「なんかおまえ、変なテンションだったし。酒、まわってんじゃないかと思ってさ」

その言い方が、妙に一朗らしくて、楓は力が抜けたように笑った。

「そっか。心配してくれたの?」

「……まあ、ちょっとな」

ぶっきらぼう。でもどこか、優しい声音だった。

二人は並んで歩き出す。

「……莉子さん、白いワンピース、似合ってたね」

ふと楓が言った。


「そうか? あんまり覚えてねぇな」

「うそ」

「ほんと」

楓は笑った。
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