私のテディベアに、私が溺愛されるまで

5

居酒屋の宴もひと段落し、会計を済ませた楓たちが店の入り口に向かう頃だった。

「……あっ!」

誰かの声に、全員の視線が自然とそちらに向いた。

「さっきの人じゃん」
「ほんとだ……楓ちゃんの幼なじみでしょ?」

入り口の向こう側、店から出てきたのは、一朗と数人の大人びた雰囲気の男女。
職場の飲み会の帰りらしく、皆スーツ姿で、笑いながら歩いている。

白いワンピースの莉子もその中にいた。だが一朗はどこか上の空で、周囲と一線を引いているように見えた。

楓の同期たちはざわついていたが、楓は黙ってスマホを見下ろした。

――通知。LINE。一朗からだった。

> 適当に抜けろ。駅前で待ってる



一瞬、心臓が跳ねた。

(なにそれ……)

けれど、すぐにスマホをしまうと、楓は静かにみんなに向かって笑った。

「……ごめん、先に帰るね。ちょっと用事あるから」

「えー楓ちゃん、もう帰るの~?」

「ごめん、ごめん」

みんなが好き勝手に言い始めるのを背に、楓は軽く手を振って歩き出した。

胸の奥が、まだ答えのない期待でざわざわしていた。

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