私のテディベアに、私が溺愛されるまで
「少し、お時間いただけませんか」
中瀬の申し出に、一朗は一拍だけ間を置いてから頷いた。

「……近くに、静かな店があるのでいきましょうか」

歩いて数分。
大学近くのこぢんまりとしたカフェに二人は入った。
時間が早いせいか、店内は空いていて、落ち着いたジャズが流れている。

向かい合って席につくと、中瀬は緊張した様子のまま、何度もグラスの水に手を伸ばした。

一朗はというと、終始穏やかな表情を崩さず、黙って相手の言葉を待っていた。

「……瑠璃さんとお付き合いを始めたのは、最近なんです」

中瀬はまっすぐな目で言葉を続けた。
「すごく真面目で、自分に厳しくて……でもたまに、不器用で。そこがまた魅力で……」

一朗は頷きながら、その言葉を黙って受け止めていた。
カップのコーヒーに手をつけながら、どこか遠い目をしている。

――お姉ちゃん、最近ちょっと変なの。

楓が言っていた言葉が脳裏に蘇った。
なんとなく、胸に引っかかっていたあの違和感。


瑠璃の変化というのは、このことだったのか。

目の前の男は悪い人間ではない。

礼儀正しく、瑠璃のことも真剣に想っているように見える。

それでも一朗の胸の奥に、鈍い痛みが広がっていた。

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