私のテディベアに、私が溺愛されるまで
楓は、一朗の胸の中でしばらく泣き笑いしていたが、やがてふっと息をついて顔を上げた。

「……ねぇ、一朗」

「ん?」

「ここ、汚れちゃうと困るからさ……」

一朗は一瞬きょとんとした表情を浮かべる。

「……?」

「一朗の部屋、行きたい」

楓は真剣な瞳で続けた。

「あと……シャワー浴びたい」

その小さな声に、一朗は急に決意したように息を吐くと、楓の身体に腕をまわし——

「わっ……!」

軽々と、楓をお姫様抱っこした。

「い、一朗っ!? ちょ……っ、降ろして!」

「嫌だ」

「や、やだじゃない! 恥ずかしいってば!」


一朗は頬を赤くしたまま、しかし真剣な目で楓を見下ろす。

「お前がそんなこと言うからだろ」

「だ、だって……!」

「部屋、行くんだろ?」

楓は、顔を真っ赤にして、でも目を逸らさず小さく頷いた。

「……うん」

一朗は、そのまま楓を抱きしめるようにして、ゆっくりと立ち上がり、自分の部屋へと歩き出した。

楓の頬が、一朗の胸元にふわりと触れるたび、彼女の息が熱くなる。

「……一朗」

「なんだよ」

「……重くない?」

「バカ。軽すぎて心配だ」

楓はふふっと笑って、一朗の首に両腕を回した。

「……シャワーは?」

「……お前の匂い消したくないから、ダメ」

一朗の声は低く、熱を帯びていた。

そしてそのまま、二人は夜の静まり返った廊下を、ゆっくりと歩いていった。
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