女王陛下のお婿さま
「――ねえ、マイラ。私、時間か場所を間違えているかしら……?」
「いいえ、アルベルティーナ様。私もこの時間にこの部屋だと聞いておりますので、間違いは無いかと!」
身支度を整え、時間通りに食堂へ入ったアルベルティーナとマイラだったが……約束の時間はとうに過ぎているのに、肝心の王子がまだ現れていない。
先程、時間が過ぎた時に侍女を一人、ファビオ王子の部屋へ様子伺いにやったのだが、その侍女も戻って来ていない。マイラは席に着いているアルベルティーナの後ろに控えながら、イライラと怒りをたぎらせていた。
「女王陛下を待たせるなんて……! 何て無礼な王子なんでしょう! クラウスもクラウスだわ! こちらに連絡の一つもよこさないなんて!!」
怒りが頂点に達したのだろうか、マイラはそれをぶつける様にカッと靴の踵を鳴らした。
「落ち着いて、マイラ。もう少し待ってみましょう。じきにクラウスから何か言ってくるかもしれないわ」
マイラのイライラとは対照的に、アルベルティーナは何処かホッとしていた。だって本当は、自分が一番すっぽかしたかったのだから。それに、すっぽかされたのならそれならそれで、今後何かあっても、何の咎もなく断る事が出来る、なんて思っていたから気楽なものだ。
いつまでも食事が始まらないので、業を煮やした料理長が様子を見に食堂へ顔を出した頃、やっとクラウスが現れた。先にやった侍女も一緒だ。
しかしどうして、二人は頭の先から足までずぶ濡れだった。
「お、お待たせしてしまい申し訳ありません……」
急いで来たのだろう、扉を入るなり頭を下げた侍女もクラウスも、はあはあと息をきらせている。
「一体何があったの、クラウス?」
「それが……」