女王陛下のお婿さま
 クラウスの話を聞いて、アルベルティーナとマイラは思わず驚きの声を上げてしまった。

「――ええ?! 王子が湯殿(ゆどの)に?!」

「はい。どうも城内を散策して見つけたらしく……今はそちらでご入浴をなさっています」

 城内の部屋にはそれぞれ風呂はあるのだが、その他に湯殿がある。それは前国王のクリストフが、老いた身体を癒す湯治の為に源泉を引いて作った温泉だった。もちろん、城に滞在している客人が使っても問題は無いのだが……。

「アルベルティーナ様とのお約束を無視して入浴ですって?! 一体何を考えているの!」

 あまりの事に、マイラは口から火を噴きそうなほど怒ってしまっている。アルベルティーナは王子の大胆不敵さに言葉もない。

「入浴するのは昼食会の後にしてはどうかと、止めたのですが……聞いて頂けず……」

 挙句の果てに、湯殿まで追いかけてきたクラウスと侍女にお湯をかけて追い払う始末。だから二人はずぶ濡れだったのだ。アルベルティーナは呆れて、大きなため息を吐いた。

「じゃあ、この昼食会は中止という事ね。時間を無駄にしたわ。部屋に戻りましょう、マイラ」

「はい、アルベルティーナ様。それと、クラウス! 王子によく言っておきなさい! 女王陛下をこれだけ煩わせたのです! 今後どのような事があっても、女王陛下はファビオ王子とはお会いしませんからそのつもりで!」

 アルベルティーナはそこまでは考えていなかったが、マイラの怒りはそうしないと収まりそうにない。だからそのままにしておく事にした。それに、もう二度とファビオ王子に会わなくても、アルベルティーナには何の問題もないのだ。

 しかし、彼女が席から立ち上がると、クラウスはあわてて言った。

「お待ちください! まだ、続きがあるんです!」

「続き……?」

「はい、あの……アルベルティーナ女王陛下も、一緒に湯浴みはどうかと……」
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