女王陛下のお婿さま
 城の湯殿は、南棟の離れになっている。建物一つが丸々浴場なのだ。

 中は大理石で出来ており、泳げる程広々とした浴槽。その周りには洗い場と、熱帯地方の植物が植えられている。温泉の湯が常に浴槽に満たされているので、その熱で部屋の中はいつも暖かく、熱帯の植物がよく育つらしい。

 アルベルティーナがドレスのまま湯殿へ入ると、その湿気と熱気にあてられた。

 湯から沸き立つ湯気に、人形のシルエット。躊躇なくそこへ向かって行くと、やっとその人物がハッキリと見えた。彼は湯槽の中央にあるお湯の噴水の縁に腰掛け、上半身は裸だが、下半身にはちゃんと男性用の湯浴み着を付けていた。

 褐色の肌にたくましい胸板、燃えるような紅蓮の髪。相手を射竦める(いすくめる)ような強い光を持った瞳は、黄金色に輝いている。彫りの深い顔立ちは、侍女たちが噂するのも納得の美男だった。

「――ようやくお会い出来ましたね、ファビオ王子」

 アルベルティーナが微笑みながら声を掛けると、ファビオはザバザバと湯船を横切り、彼女の目の前に。そして恭しく跪き(ひざまずき)、頭を下げた。

「このような姿で失礼いたします。わたくしはナバルレテ国第九位王子、ファビオ・ナバルレテと申します。お目にかかれて光栄です、アルベルティーナ女王陛下」

 ファビオの意外にも紳士な態度に、アルベルティーナは驚いてしまった。

(もっと、礼儀の無い野蛮な男なのかと思っていたけど……)

「顔を上げて下さい、ファビオ王子。ここは玉座も無い湯殿です。堅苦しいのは止めにしましょう」

 アルベルティーナがそう言うと、ファビオは顔を上げ立ち上がった。すると側に控えていたクラウスがすぐに、彼の肩にバスローブを掛ける。バスローブを用意したのはマイラだ。女王陛下の御前に、いつまでも半裸の男を立たせておくわけにはいかないと。
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