女王陛下のお婿さま
 湯殿の一件から、ファビオは城の中でアルベルティーナに付いて歩いていた。いや、付いて歩くというより、付きまとうと言った方が正しいだろうか。

 忙しく公務をこなすアルベルティーナの行く所には可能な限り同行し、必ず彼女の隣にくっついている。官僚たちとの会議やアルベルティーナが嫌がった時にはすぐに身を引くが、それこそ私室に帰って眠るまで、ファビオはアルベルティーナの側を離れなかった。

 そんな事が三日も続くと、流石にアルベルティーナもうんざりしてくる。相手にしなければすぐに飽きるだろうと思っていたが、そうはいかないようだった。

 そして四日目の朝。当然のように朝食に同席しているファビオに、アルベルティーナは根負けした。

「――ファビオ王子、一体何が目的なのですか?」

「目的? 何の事だ?」

 ファビオがわざとらしく惚けているように感じる。アルベルティーナは少しイライラして、持っていたナイフとフォークをガシャンと置いた。

「婿入り先は他で探してくださいと言ったはずです。それなのに、どうして……!」

「俺はそれに承諾した覚えは無い」

「そんな……!」

 今まで、色々な男性に会ってきたが、大抵は少し冷たい素振りをすれば空気を読んで去ってくれた。一国の女王陛下の機嫌を損ねないようにとの配慮と、自分はお呼びじゃ無いと悟るのだろう。

 だがどうやら、この王子はそうはいかないようだ。呑気に目の前でパンなんて食べている。

「……では、どうしたら諦めてくださいますか?」

 イライラを必死で押さえ込みながら聞くと、ファビオはコップの水をグイと煽り、パンを流し込む。そして――

「一日だけでいい、俺と付き合ってくれ」

「付き合う……?」

「ああそうだ。そうだな……供の者も最低限にして、丸一日俺と何処かへ出掛けないか?」

 一日あればアルベルティーナを落とす事が出来る、と自信たっぷりのファビオの笑顔がそう言っていた。
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