女王陛下のお婿さま
 ――一方、ファビオは食堂を出たその足で、また湯殿に来ていた。そして着替えの最中に、背中を流せと外に控えていたクラウスを呼んだ。

 背中を流すならファビオの従者がいるからその者たちでいいのに。なぜわざわざ自分が呼ばれたのか、クラウスは不思議に思った。だが、侍従として一応ファビオに付いている。断る事は出来なかった。

「クラウス、と言ったな。お前はあの女王陛下の幼馴染みと聞いたが、本当か? 実家は公爵家だそうだな」

 洗い場でクラウスがファビオの背中を流していると、彼は前置きも無しに言った。

「……本当です。今は侍従として使えていますが……」

 クラウスは少し驚いたが手を止め、正直に答えた。隠す事ではない、城中の皆が知っている事だ。でもこの短期間でファビオがそれを知った事に驚いたのだ。

「驚かせてしまって、すまんな。女王陛下について調べていたら、お前の話しも出てきたんだ」

 流石、軍事大国の王子といった所だろうか。戦において情報収集は重要な戦略だ。ファビオはアルベルティーナを攻略する為に、供の者を使って彼女を調べていたようだ。

「公爵家に生まれながら、今は侍従か……俺と同じように、クラウスも色々苦労したんだな……」

「俺と同じ様に……?」

「見えるだろ? 背中の傷」

 ファビオの言う通り、彼の背中には刃物で付けたような切り傷の跡が幾つか付いていた。

 ファビオは立ち上がると、クラウスへ向き直る。

「背中と腹、子供の頃に刀で切り殺されかけた跡だ。まあ、お家騒動なんて、少しばかり大きな家ならよくある事、だろ?」

 にこりと笑ったファビオだが、腹にはもっと大きな傷跡が。
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